ひちへんげ

美術、旅、宣伝やらものおもい

ELLE

駆け込みでELLEをみた。

レビューとかで「レイプ被害者に対するステレオタイプを破る映画」とあったけど、もちろんそれもそうなんだけど、ELLE(彼女)自身の魅力にやられてしまう爽快な映画だった。暗いドラマ映画ではなく、スリラー的でもあり、コメディ的でもある。ヨーロッパ映画のいいところはこういう「ジャンル分け」を許さないところだとおもう

  • レイプや暴力に訴える人間は、相手を人格のある一人の人間として感じ、認識することに脅威を感じる。無論そういったことを知ってもあえて暴力を振るいそれに恍惚する変態もいるだろうが、今回のレイピストは明らかに主人公が一人の人間として接してきたり、人間味のある行動をすることに戸惑い、恐怖すら感じている。
  • 出てくる男が全員暴力を振るっている。唯一違うのは息子か。レイピストはいざ知らず、元夫も暴力がきっかけで別れたようだし、愛人は主人公を性の処理としてしか見ていない。彼女を慕っていたギーク的社員も、結局彼女を性的なはけ口として使っている。disrespectはなはだしい。レイピストが明らかになっても、会社内でのセクハラ的言動からして彼女には敵がたくさんいる。殺人鬼の親を持つということで街中でも暴力を振るわれる。というか彼女は10歳からそういう暴力に絶え間無くさらされてきた、だがけっして自分を閉じ込めたりして屈しないそういう「ELLE」の話。
  • コメディ的要素。バンパーをぶつけても無理やり車を押し込むシーン。息子の彼女が産んだ子供が黒かった…典型的なブラックコメディ。全く暗い映画ではない。
  • 常に暴力と対峙することを選ぶ彼女。ギーク君のエロ画像を見つけても冷静に問い詰める。元夫の口汚ない言葉を注意する。レイピストと会うことをやめない。言葉には決してならないが、最後のレイプシーンで犯人が屈した。それを視線や表情だけで演じ分ける二人の役者。
  • 彼女は、したいように友達の夫と寝たり、元夫の彼女の料理に爪楊枝を仕込んだり、息子の彼女を批判したりとかなり相手にしたくない女だが、なぜかとても魅力的なキャラクター。彼女は彼女のルールで戦い、学び、そして柔軟に変化していく。対立する優秀な部下キュクロを認めたり、不毛な不倫をやめたり、息子の実力を認めて大人として扱うようにする。
  • とはいえレイプシーンは気合の入ったもので恐ろしいしレイピストが登場するシーンはサイコホラーのよう。しかしこの役をユペールは完全に掌握している。そして「ラストタンゴインパリ」でベルトルリッチがシュナイダーに相談せずレイプシーンを撮ったことを思い出し、比べた。いかにベルトルリッチが「役者ではなく女の子としての本当の演技を出すために」と言い訳しても、このユペールの演技を観た後では、結局ベルトルリッチは「演技が実際を超えられない」という敗北宣言をしたようなもので、女優という職業に対してのリスペクトが全くないなあと思った。